午後より余白句会。当季雑詠一句と兼題「黴」「越」を一句ずつ。(哲




2011N625句(前日までの二句を含む)

June 2562011

 クーラーのきいて夜空のやうな服

                           飯田 晴

の中の風の道を、朝晩いい風がぬけていたのがぴたりと止んでしまい、まだ六月というのにここにきてさすがに暑い。もともとクーラーなど無かったわけだし、扇風機と水風呂でひと夏乗り切れるのでは、と思っていたが、ここへきてやや弱気になりかけている。そんな自然のものではない冷房、クーラー、を詠んで、詩的で美しいなあ、と思う句にはあまり出会ったことがないが、この句は余韻のある詩であり、美しい。生き返るようなクーラーの涼しさと、黒いドレスの輝き。夜空のような服はきらきらと見る人を惹きつけ、着ている人を引き立て、夜半の夏を涼やかに華やかに彩っている。『たんぽぽ生活』(2010)所収。(今井肖子)


June 2462011

 いくたびか馬の目覚める夏野かな

                           福田甲子雄

の馬、どういう状態にいるのか。行軍の記憶のようでもあり、旅のイメージも感じられるし、夏野を前景として厩の中にいる馬の様子のようでもある。目覚めという言葉から加藤楸邨の代表句で墓碑にも刻まれている「落葉松はいつ目覚めても雪降りをり」が浮かぶ。手術後の絶対安静の状態で見た夢ともうつつともつかない風景というのが定説だが、僕には墓に刻まれていることもあって、楸邨が墓の中で眠っては目覚めの繰り返しを永遠に重ねているようにも思える。そういう目覚めを考えていたら、甲子雄さんの句は人に尽くしたあげく野に逝った無数の馬の霊に思えてきた。馬頭観世音の句だ。『金子兜太編・現代の俳人101』(2004)所載。(今井 聖)


June 2362011

 微熱あり黒く輝くハイヒール

                           久保純夫

込むほどではない、さりとて何かしらだるく熱っぽい。頭がぼうっと霞がかかったよう。普段通りの生活をしているが瞼の裏が熱くて上ずった感じがするそんなうす雲のかかった脳裏に浮かぶハイヒールは幻想なのか、現実なのか。フェティシズムの中でも女の靴に欲望を示す男が多くいることは知られているが、この句にはあのとがった踵で熱っぽい頭を踏みつけてもらいたい。そんな怪しい欲望さえ感じられる。「微熱あり」と最初に置いてしまうとどんな妄想でも受け入れてしまう難しさがあるが、黒いハイヒールの残酷な輝きは、かえってなまなましい現実を意識させる。季語の共感に寄りかからないこの句の場合、読み手の側へ黒く艶のあるハイヒールがくっきりと浮き出てくれば成功というところか。『比翼連理』(2003)所収。(三宅やよい)




『旅』や『風』などのキーワードからも検索できます