名門ドジャースが破産の危機に。世の中、一寸先は闇だなあ。(哲




2011N629句(前日までの二句を含む)

June 2962011

 すいすいとモーツアルトにみづすまし

                           江夏 豊

神、南海、広島、他のチームで活躍したあの往年の豪腕の名投手・江夏が俳句を作ったことに、まず驚かされてしまう(シツレイ!)。さらに「モーツアルト」と「みづすまし」のとんでもない取り合わせにも驚かされる。新鮮である。ここで流れているモーツアルトの名曲は何であろう? おそらく「すいすい」という軽快さを感じさせる曲であろうかと思われる。同時に、水面をすいすい走るみづすましの動きにもダブらせている。まさかみづすましがモーツアルトの曲に合わせて滑走しているわけではあるまい。並列されたモーツアルトもみづすましも、ビックリといったところであろう。さすが名投手、バッターが予測もしなかったみごとな好球を投げこんできた。みづすまし(水馬)は「あめんばう」とも呼ばれてきたけれども、学問的に正しくは「まひまひ(鼓虫)」のことをさすのだという。水面を馬が駆けるように四足で滑走するところから「水馬」。この頃は見かけなくなった……というか、当方が池や小川の水面をじっくり覗きこむことが少なくなってしまった、と言うべきか? 「打ちあけてあとの淋しき水馬」(みどり女)、「みづすまし味方といふは散り易き」(狩行)などがある。『命の一句』(2008)所載。(八木忠栄)


June 2862011

 明易し絵具の棚の青の段

                           天野小石

近なところでmacのカラーインデックスを開いてみた。パレットのクレヨンは48色が配され、青とおぼしき種類だけでも7種類が並ぶ。薄い方からスカイ、アイス、アクア、ターコイズ、ブルーベリー、オーシャン、ミッドナイト、こうして文字にするだけでも涼やかな風が運ばれてくるようだ。日本の伝統色の青みに至っては、瓶覗(かめのぞき)やら紅掛空色(べにかけそらいろ)など、涼感というより、その名の生い立ちに深く興味を覚える。おそらく作者も、青系の絵具の並ぶ棚を眺め、そのグラデーションの美しさに目を奪われたのはもちろん、それぞれに付いたゆかしい名の由来に思いを馳せつつ、仄とした明易(あけやす)の時間に身を置いているのだろう。暁から薄明、東雲、曙と深い闇から明るい瑠璃色へと移り変わる夜明けもまた、空の青の段を楽しめる時間である。『花源』(2011)所収。(土肥あき子)


June 2762011

 若楓おほぞら死者に開きけり

                           奥坂まや

(かえで)は紅葉も美しいが、青葉の輝きも見事だ。歳時記で「若楓」と、独立した季語として立てられているのもうなずける。この句のシチュエーションはいろいろに想像できるが、私は納骨の情景を思い浮かべた。普通の墓参りよりも少々厳粛な気分で親族や関係者が集まり、服装も黒っぽい。上天気なのだろう。折りからの初夏の風にあおられて、それまで墓をおおっていた楓の影が払われ、ぱあっと日が降り注いでくる。思わず見上げた目には、真っ青な「おほぞら」が……。そこでいささか鬱屈していた作者は、一瞬救われたような気持ちになったのだろうが、その気持ちを自分のそれだけにとどめず、埋葬される死者と共有しているところが素晴らしい。いや、楓はむしろ死者のためにこそ大空を開いてくれたのだと詠んだ作者の、大きな包容力を伴った情景の捉え方は、読者をもまた癒してくれる。単なるスケッチを超えた佳句だと思った。『妣(はは)の国』(2011)所収。(清水哲男)




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