@L句

July 0572011

 いま汲みし水にさざなみ黒揚羽

                           今井 豊

んだ水がしばらく揺らめいている様子は、「もぎたて」「捕りたて」のような生きものめいた艶めきがある。目の前にある水が立てる生き生きとしたさざなみを見つめ、その小さな波頭に思いを寄せている。ざわめく気持ちがいずれは落ち着くことが分っている、なだめるような視線である。小さな水面のさざ波は、やがて穏やかな一枚の滑らかな水のおもてになるはずだ。一方、確かに生きているにも関わらず、黒揚羽の美しさはどこかつくりものめいている。さらに「バタフライ効果」といわれる「ブラジルでの蝶の羽ばたきがテキサスで竜巻を引き起こす」という予測可能説が頭をよぎり、その静かな羽ばたきによってもたらされる吉凶の予感が、見る者の胸をざわつかせる。予言者めいた黒揚羽が、汲んだ水を持つ者の手をいつまでも震わせ、さざなみ立てているのかもしれない。〈せりなずな生はさみどり死はみどり〉〈もてあます時間崩るる雲の峰〉『草魂』(2011)所収。(土肥あき子)




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