yd句

July 1772011

 峯雲や朱肉くろずむ村役場

                           土生重次

に明暗のはっきりした句です。色、というものの鮮やかさと、白黒のメリハリ。とにかく絵画を見つめるようにして、読者は句の中に入り込んで行けます。夏の盛りなのでしょう。あぜ道を汗だくになりながら自転車を走らせて来たのでしょうか。村役場に入ってくるその人の背中越しに、雲の峰が空高く盛り上がっています。あんまり明るい外から入ってきたために、役場の中はひどく暗く感じられます。住民票の申込書に必要事項を書き、備え付けの朱肉を見れば、真っ赤なはずなのに、赤がそのまま黒ずんで見えます。あまりに明るい場所から来たせいで、目の機能がおかしくなってしまったのか。あるいは赤という色には、もともとその奥に暗闇がしまわれていて、ふとした瞬間に、その姿を見せてしまっただけなのかもしれません。『新日本大歳時記』(2000・講談社)所載。(松下育男)




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