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May 1452013

 薫風一枚ペーパーナイフに切られけり

                           中尾公彦

路樹の緑が日に日に濃くなり、木もれ日がきらきらと跳ね回る季節となった。梅雨の前のひとときは花の香りを含んだ風のなかで、清潔な明るさに包まれる。薫風とは、山本健吉によると「水の上、緑の上を渡って匂うような爽やかさ感ずる夏の南風」とある。生気溌剌たる風の触手が、触れたものの香りを掬いとって大気へと放つというわけだ。掲句では、ペーパーナイフを使う所作に、薫風も切り分けているのだとふと自覚する。愛用者は「切り屑が出ない」「書類まで切ってしまう失敗がない」などの長所を挙げるが、机上に常備しているのは少数派だと思われる。とはいえ、ペーパーナイフには特化を極めたものの美しさがある。ステンレス製、木製、象牙や水牛の角などさまざまな素材からなり、持ち手のカーブや装飾など、手になじむ心地よさを追求した結果の、もののかたちである。開封するという目的だけに作られたシルエットの美が、麗しい季節を最大限に引き立る。『永遠の駅』(2013)所収。(土肥あき子)




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