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August 0882013

 日の丸の白地に赤がかなしけれ

                           長澤奏子

いむかし「白地にあかく/日の丸そめて/ああ美しい/日本の旗は」と歌った思い出がある。今ネットで調べるとこの歌は明治44年作になっている。作られた時代背景を思うと、1910年の日韓併合の翌年になる。朝鮮半島を足掛かりに大陸へ出てゆく体制を作るうえでも国旗、国歌、国への忠誠をより強化する意図があったのだろう。日の丸の意味はその人の抱える経験、思想、信条によってもさまざまな意味に解釈されるだろう。本来、日の丸の赤は太陽を象徴しているそうだ。戦後廃されたが、昭和16年に作られた上記の一番に続く二番は「勢い見せて/ああ勇ましい/日本の旗は」日本の勢いにまかせて大陸に渡った155万以上の人たちは終戦とともに置き去りにされた。作者の場合は幼児期に上海に渡り、昭和21年3月に長崎に引き揚げ、その後は広島で暮らしている。「かなしけれ」と静かに呟いてはいるが、7歳での引き揚げ体験には筆舌に尽くしがたい思いがあっただろう。日の丸の赤があの戦争で流された血で染まっているように思える。『うつつ丸』(2013)所収。(三宅やよい)


March 0632014

 高階に飼はれし猫の春愁

                           長澤奏子

の路地を恋猫が素早く駆け抜けてゆく。マンションの高階に飼われている猫は身のうちにざわざわする恋の予感を感じつつもわけもわからずうろうろ部屋の中を歩き回るしか術がなかろう。人間だって空中に宙吊りになって暮らせば本能にかけ離れた暮らしになるわけで身体に悪そうだ。と同じマンション暮らしでも地べたに近い階に住んでいる私なぞはそんな負け惜しみを呟いてみる。低かろうが高かろうが、閉じ込められて外にでられない猫の憂鬱には変わりはないけど、高階だからこそその春愁がいっそう哀れで、艶めいて感じられる。『うつつ丸』(2013)所収。(三宅やよい)




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