Vca句

September 2192013

 丁寧に秋のビールを注がるる

                           澤田和弥

は一年中ほとんどビールしか飲まなかった。四季を問わず、トマトと豆腐とラガーの大瓶で始まる晩酌、気に入りの小さいグラスでゆっくり延々と飲むのが好きだったがそのうちさすがに、あと一本は飲めない、と調節用に缶ビールを買うようになった。缶はどれも同じだなあ、などと言いながら、グラスに注いでいたのを思い出す。そんな光景がしみついているからか、ビールといえば夏、と実感しにくいのだが、秋のビール、と言われると、しみじみとした季感と共に冷えすぎていない茶色の壜麦酒が浮かぶ。麦酒が注がれるグラスにそそがれる二人の視線、静かに注いでくれているその人と、それを丁寧と表現する作者、美味しい麦酒と一緒に長い夜がつづく。『革命前夜』(2013)所収。(今井肖子)




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