October 272013
月山の雲の犇めく芋煮会
後藤杜見子
東北の秋は、芋煮会だと聞かされておりました。今月半ば、山形の映画祭に行く用事があり、初めて芋煮汁をいただきました。聞くと食べるのでは大違い。芋は里芋で、つるんと口から食道を通過し、一口大に切られたちぎりこんにゃくも同様、つるんと胃袋へ。味のしみ込んだごぼうとにんじんをもぐもぐ噛み、かつをとしいたけのだしの利いた温かいうす醤油味の汁をのみ込む所作を繰り返して、おかわりをいただきます。直径1m程の大きな鉄鍋で作っているので、いくらおかわりをしても大丈夫な大盤振る舞い。山形の人のよさ温かさを堪能しました。山に囲まれた盆地のせいか、雲はやや低くうす黒く濃い青空で、太平洋と日本海真ん中の山あいの気候でした。掲句、「月山の雲の犇(ひし)めく」中で作られる芋煮は、具も味も人々も多様な豊穣の秋です。『新日本大歳時記・秋』(講談社・1999)。(小笠原高志)
October 262013
潮騒の人ごゑに似て温め酒
上田日差子
旧暦九月九日が寒暖の境い目、その後は酒を温めて飲むと体によいとされていたという。今年は先週の日曜日、十月十三日だったが、立て続けの台風襲来で寒暖の差が激しく、なかなかそんな気分にもなれなかった。まあでもさすがに日が落ちれば肌寒く、あたためざけ、ぬくめざけ、がしっくりくるようになって来たこのところだろう。温め酒は一人で、せいぜい二人差し向かいでやるのが似合っている。広い居酒屋などでゆっくり飲むうちに酔いがやや回って来て、周囲のざわめきの中に身を置いていることが妙に心地良くなってくることがある、なるほど潮騒か。人ごゑの潮騒に似て、では広がりがなくなる。などと思ったが普通に考えれば、作者はかすかな潮騒に耳を傾けながら少し人恋しくなっているのだろう。いずれにしても、温め酒、に趣が感じられる。『和音』(2010)所収。(今井肖子)
October 252013
鳥威きらきらと家古りてゆく
波多野爽波
鳥威は、かつては、空砲を撃ったりしていたそうだが、今は、もっぱら、赤と銀のテープが用いられている。風に靡いてきらきらしている鳥威。一句は、「鳥威きらきらと」で切れる。傍に、古くなった家が建っている。鳥威のきらめきが、家の古びた様子を一層際立たせている。家「古りてゆく」なので、時間の経過が感じられる。「古りにけり」では、この臨場感は表せない。『骰子』(1986)所収。(中岡毅雄)
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