2013N1029句(前日までの二句を含む)

October 29102013

 長き夜の外せば重き耳飾

                           長嶺千晶

中身につけているときには感じられないが、取り外してみてはじめてその重さに気づくものがある。自宅に帰って、靴を脱ぐ次の行為は、イヤリング、腕時計の順であろう。化粧や服装などと同様、女の身だしなみであるとともに外部との武装でもあることを考えれば、昼間はその重みがかえって心地よいものに思えるのかもしれない。装飾品を取り外しながら、ひとつずつ枷を外していく解放感と同時にむきだしになることの心細さも押し寄せる。深々としずかな闇だけが、女の不安をやわらげることができるのだ。『雁の雫』(2013)所収。(土肥あき子)


October 28102013

 霜柱土の中まで日が射して

                           矢島渚男

を読んで、すぐに田舎の小学校に通ったころのことを思い出した。渚男句を読む楽しみの一つは、多くの句が山村の自然に結びついているために、このようにふっと懐かしい光景の中に連れていってくれるところだ。カーンと晴れ上がった冬の早朝、霜柱で盛り上がった土を踏む、あの感触。ザリザリともザクザクとも形容できるが、靴などは手に入らなかった時代だったから、そんな音を立てながら下駄ばきで通った、あの冷たい記憶がよみがえってくる。ただ、子供は観照の態度とはほとんど無縁だから、よく晴れてはいても、句のように日射しの行く手まで見ることはしない。見たとしても、それをこのように感性的に定着することはできない。ここに子供と大人の目の働きの違いがある。だからこの句に接して、私などははじめて、そう言われればまぶしい朝日の光が、鋭く土の中にまで届いている感じがしたっけなあと、気がつくのである。『延年』(2002)所収。(清水哲男)


October 27102013

 月山の雲の犇めく芋煮会

                           後藤杜見子

北の秋は、芋煮会だと聞かされておりました。今月半ば、山形の映画祭に行く用事があり、初めて芋煮汁をいただきました。聞くと食べるのでは大違い。芋は里芋で、つるんと口から食道を通過し、一口大に切られたちぎりこんにゃくも同様、つるんと胃袋へ。味のしみ込んだごぼうとにんじんをもぐもぐ噛み、かつをとしいたけのだしの利いた温かいうす醤油味の汁をのみ込む所作を繰り返して、おかわりをいただきます。直径1m程の大きな鉄鍋で作っているので、いくらおかわりをしても大丈夫な大盤振る舞い。山形の人のよさ温かさを堪能しました。山に囲まれた盆地のせいか、雲はやや低くうす黒く濃い青空で、太平洋と日本海真ん中の山あいの気候でした。掲句、「月山の雲の犇(ひし)めく」中で作られる芋煮は、具も味も人々も多様な豊穣の秋です。『新日本大歳時記・秋』(講談社・1999)。(小笠原高志)




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