MY句

March 0532014

 しつけ絲ぬく指さきの余寒かな

                           奥野信太郎

つけ(躾/仕付)絲を辞書で引いたら、「絹物用にはぞべ糸、木綿物用にはガス糸」とあった。これがまたわからない。さらに調べると、「ぞべ糸」とは片撚りをした絹糸であり、「ガス糸」とは木綿糸表面のばらけ繊維をガスの炎で焼いて光沢を生じさせたものである、という。初めて知った。春になって新しくおろす着物(和・洋)のしつけ絲を器用に抜く、その人の指先には春とはいえ、まだ冬の寒さが残っているのだろう。子どもの頃、特別な日に新しくおろしてもらって着る衣服のしつけ絲を、母がピッピッと小気味よく抜いてくれたことを覚えている。さあ、暦の上では立春。ようやく春がやってきたけれども、実際にはまだ寒さは残り、女性の細い指先も、春先の冷たさを少し残しているように感じられるのだろう。しつけ絲を抜いてもらう喜びが、「余寒」のなかにもひそんでいるようだ。信太郎には、他に「炭はねて臘梅の香の静かなる」という句がある。『文人俳句歳時記』(1969)所収。(八木忠栄)




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