cモみ子句

April 1542014

 しがみつく子猫胸よりはがすなり

                           岩田ふみ子

年前、里親募集をしていたお宅で保護されていたのは三毛と白黒の姉妹。350gばかりの仔猫をかわるがわる抱き上げてもふわふわと頼りなく、ひしと胸にしがみつく姿は猫というより虫がくっついているようだった。細い爪をたてて、まるで「このまま連れていって」と言っているような健気な風情になんともいえない哀愁があり、結局二匹とも貰い受けた。猫姉妹はさっさと大人になり、一年でおよそ10倍に成長した。遊び相手がいつでも身近にいるので、それほど人間に甘えてこないところが少しさみしくもあるが、大人だけの暮らしのスパイスとなっているのはたしかだ。仔猫がまだ目が開く前から高いところへと登ろうとする習性は、かつて木の上で生活していた頃の安全地帯が記憶に刷り込まれているためだという。長い歴史のなかで生き残ってきた動物たちの知恵が小さな猫にも活かされている。掲句の仔猫にもどうか必要とされる家族が見つかりますように。『文鳥』(2014)所収。(土肥あき子)


September 1292014

 椋百羽飛んで田の神おどろかす

                           岩田ふみ子

の神は、日本の農耕民の間で、稲作の豊凶を見守り、稲作の豊穣をもたらすと信じられてきた神である。水神様とも言われる田の神で、脇では農家がお昼なんかをして長閑である。椋鳥は留鳥として市街地や村落に普通にいる。秋から冬には群れで行動し夕方ねぐらでは何万羽という大群になることがある。長い列島では稔りの盛期の所も刈入れ中の所も刈入れが済んだところもあろう。そんな大和まほろばの田んぼに突如として椋の大群が襲った。広大な田んぼを前に驚いているのはただ水神様一人。悠久の空には細やかな秋の雲がずっと広がっている。椋一群は空に沁みて消えてしまった。『文鳥』(2014)所収。(藤嶋 務)




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