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November 17112014

 昔々勝手にしやがれという希望

                           甲斐一敏

うか、もうゴダールの映画『勝手にしやがれ』は、「昔々」の域に入っているのか。調べてみたら1959年の製作だから、五十年以上も昔のフィルムである。見ていない人には説明の難しい映画だが、ストーリーとしては、官憲に追われた街のチンピラやくざ(ジャン・ポール・ベルモンド)がガールフレンドのアメリカ娘(ジーン・セバーグ)の密告で追いつめられ、最後は路上で警察の銃弾を受けて虫けらのように死んでいく、という単純なもの。しかしこのストーリーの画面上の展開技法は従来の映画の文法を打ち破る画期的な作品で、当時の若い映画ファンの度肝を抜いたのだった。ああ、映画はこんなに自由なメディアなのだ。見ていて、体中の神経や筋肉の緊張がが解き放たれるような気分であった。作者が「希望」と言っているのは、思想的な問題もさることながら、そうした自由気ままな雰囲気から触発された多くのことを指しているのだと思う。日本語のタイトルは「勝手にしやがれ」だが、原題は『A BOUT DE SOUFFLE』で、直訳すれば「息切れ」とでもすべきだろうか。これを大胆に改変した日本語のタイトルは、秀抜である。この絶妙な日本語タイトルとあいまって、若者の「希望」はなお色濃くなったと言ってもよさそうだ。『忘憂目録』(2014)所収。(清水哲男)




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