May 0652015

 矢車の音に角力の初日かな

                           桂 米朝

の児の成長を願う鯉のぼりが、四月のうちから青空に高く泳いでいる、そんな光景がまず見えてくる。大相撲とちがって「角力」と書く場合は「草相撲」を意味するのが一般的だから、鯉のぼりの竿の先でカラカラと風にまわっている矢車の音があたりに聞こえ、同時に力強い鯉のぼりも眺望できる場所で角力大会の初日を迎えた。今や懐かしい風景であり、晴れ晴れしい。すがすがしい風に矢車の音が鳴って、地域の角力に対する期待があり、観戦の歓声も聞こえているのかも知れない。いや、「角力」を「大相撲」と解釈して、その初日へ向かう道中でとらえられた「矢車の音」としてもかまわないだろう。本年三月に亡くなった米朝は上方の人だが、大阪場所は例年三月の開催。季語「矢車」は夏だから、時季は大阪場所では具合が悪く、両国国技館での五月場所のほうが整合性がある。ちなみに、今年の五月場所の初日は四日後の5月10日である。楽しみだ。米朝は小学生の頃から俳句に興味を持ち、旧制中学では芭蕉、蕪村、一茶などを読みふけり、「ホトトギス」や「俳句研究」までも読んでいたという。掲出句は《自選三十句》中の一句であり、他に「咳一つしても明治の人であり」がある。『桂米朝集成』第4巻(2005)所収。(八木忠栄)




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