@Wq句

September 2992015

 この椅子にさっき迄居た穴惑い

                           西村亜紀子

き嫌いの差こそあれ、蛇ほど強い印象を与える生きものはいないだろう。穴惑いとは、春の彼岸に出、秋の彼岸に入るといわれる蛇が彼岸を過ぎてもまだうろうろと地上に姿を見せている様子。掲句は「さっき迄」というが、その姿はありありと作者の目に焼き付いている。と、まだこの辺にいるのではないかという恐怖が作者を動揺させているが、いないものは、いるものより怖い。椅子の上に刻印された蛇の輪郭はいつまでも煌煌と光りを発している。同著は船団所属同世代女性三人の合同句集。北村恭久子〈ちゃんちゃんこいつもどこかがほころびて〉、室展子〈システムのかすかな軋み星流る〉など三者三様の個性が光る。あ、今ようやく書名の理由に気がついた。『三光鳥』(2015)所収。(土肥あき子)




『旅』や『風』などのキーワードからも検索できます