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October 28102015

 店主(あるじ)老い味深まりぬ温め酒

                           吉田 類

季を通じて、日本酒は温め酒でいきたいと私は思うけれど、一般的にも温め酒にこだわりたい季節になってきた。馴染みの酒場で、ある時ふと店主もトシとったなあという感想をもったのだろう。活気のあるお兄ちゃんやお姉ちゃん店員もいいけれど、うっかりしていたが、トシとともに店主のウデはもちろん、物腰や客扱いに味わいが増してきた。注文した酒や肴の味わいも一段と深くなってきた、そう感じられるというのであろう。温め酒の燗の加減にも納得できる。馴染みの酒場ならではのうれしい「店主の老い」である。テレビで週一度放映される「吉田類の酒場放浪記」を、私は毎週楽しんでいる。酒を求め、酒場を求めさまよっているこの人の人間臭さが、さりげなくにじむ特別な時間。こっちも一緒にくっついて、さまよっているような気分にさせてもらっている。俳人である。テレビでは最後に酒場ののれんをくぐって外に出ると、必ず詠んだ俳句が画面に表示されて、この人はさらに夜の闇へとさまよってゆく。その俳句は「吟行のロケーションを酒場におくというほどの意味」だそうである。他に「酔ひそぞろ天には冬の月無言」という句も。さて、今宵も……。『酒場歳時記』(2014)所載。(八木忠栄)




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