2016N110句(前日までの二句を含む)

January 1012016

 冬の夜や灯り失くして木漏れ星

                           郷 拓郎

月二日の夜。友人の山荘で、旧知の三人と初対面の三人とで一晩を過ごしました。「ゴウです」と挨拶されたその声が繊細で女性的で髪が長かったので、彼が男性であることを認識するまで6時間かかりました。深夜、他の四人が寝静まって、二人暖炉の前で酒を飲みながら、ゴウ君が音楽家であることと恋話など聞いていたとき、「小笠原さんは何者なのですか」と聞かれたので、私は外に出て尺八を吹き、一句作って、「ゴウ君も一句作らないと中には入れさせない」と言ったらしいのです。ゴウ君が、森の木と木の間から見える星をみつめながらひねり出したのが掲句。翌日、前夜の記憶をほとんどなくしていた私は、外に投げ出されていた尺八の袋と、逆さに置いてある缶ビールを見て、かすかに記憶を取り戻し、今年最初の一句をゴウ君に揮毫してもらって、駅でハイタッチをして別れました。(小笠原高志)


January 0912016

 鈴一つ拾ふ初寅神楽坂

                           肥田埜恵子

段なら目に留まっても拾うことはないかもしれない鈴だが、お正月の境内ということもありそっと手のひらにのせたのだろう。澄みきった空気を小さく震わせて一瞬かすかな音をたてる鈴、他の何を拾い上げてもこの仄かな味わいは生まれない。今日一月九日は初寅、一月最初の寅の日に毘沙門天に参詣する、ということなので、神楽坂善國寺の毘沙門天御開帳の日のできごとと思われる。初が付く十二支の日は、初午は二月、初辰は毎月、などそれぞれ異なるが、初未、とは取り立てて言わないという。今年もまた、知らないことだらけの身を刺激される一年となりそうだ。『俳句歳時記 第四版』(2008・角川学芸出版)所載。(今井肖子)


January 0812016

 鷽替へてまた抽斗に放り込む

                           土肥あき子

替えとは、主に菅原道真を祭神とする神社において行われる神事である。鷽(ウソ)が嘘(うそ)に通じることから、前年にあった災厄・凶事などを嘘とし木彫りの鷽を新しいものに交換し、今年は吉となることを祈念して行われる。この鷽と言う鳥は四十雀ほどの小鳥でオスの頬の淡い朱色が美しく目を引く。「琴弾鳥」の別名は脚を交互に上げてフィッフィッと鳴く仕草が琴を弾くようなので着いた。梅や桜の蜜をあさり花びらをこぼすのもこの鳥の性。また春が来て今年こそはもっと良い夢を散らしたいなと新しい鷽を抽斗(ひきだし)に大切に仕舞う作者ではあった。他に<夜のぶらんこ都がひとつ足の下><花疲れして懐の猫が邪魔><じゃんけんのあひこは楽し木の実落つ>などなど『夜のぶらんこ』(2009)に所収。(藤嶋 務)




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