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January 1712016

 鉛筆の芯に雪解の匂ひかな

                           武井伸子

筆の芯に鼻を近づけると甘い匂いがします。これを雪解の匂いとしたところに飛躍があって新鮮です。たしかに、雪解は早春の草木がかすかに発する息吹を運んでくれるのかもしれません。キーボードやタブレット使用が一般的な現在、鉛筆を使う人はめっきり減りましたが、昨日今日は大学入試センター試験です。全国693箇所で56万本の鉛筆が動くとき、それぞれの会場には甘い香気が漂うのでしょう。受験生は、今まで蓄積してきた知識を鉛筆の芯に託して、堅固な意志を鋭角に削られた鉛筆の先に宿します。問一、問二、問三、「やれそう、やれる」という手応えは、受験生を緊張から解放してランナーズハイに似たある種の快楽へと誘います。「雪解」は春の季語ですが、受験生たちは、いち早くその匂いを実感しているのではないでしょうか。「ににん」(2016年・冬号)所載。(小笠原高志)




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