2016N120句(前日までの二句を含む)

January 2012016

 てんてまりつけばひだまりひろがりぬ

                           日原正彦

てんてんてんまり てんてまり……、新年の日だまりで女の児たちが楽しそうにまりつきに興じている。そこらへんから新しい年はひろがっていく。てんまり、手まりーーーそれらの遊びは遠い風景になりつつあって、今やむなしい「ひだまり」がひろがるばかりだ。「てまり」と言えば、西条八十作曲の童謡「鞠と殿さま」、あるいは横溝正史の「悪魔の手鞠唄」のようなおどろおどろしいものもある。良寛さまの「こどもらと手まりつきつゝこの里に遊ぶ春日はくれずともよし」などの歌を想起する人もあると思われる。私などがまだ子どものころには、ゴム製のてんまりで女の児たちが遊んで、♪おっかぶせ、と歌ってサッとスカートのなかにまりを器用に隠したりしていたのが、記憶に残っている。今や、てまりは女の児の遊びというよりは、観光みやげとして美しい彩りのまりが各地で売られている。掲出句は昨年末に刊行された句集『てんてまり』(2015)の冒頭に「新年の章」として、「自転車のタイヤの空気去年今年」などとならんで収められており、「新聞、雑誌、テレビなどの「俳壇」欄に入選(特選、秀逸、佳作)したものばかり」(あとがき)が収録されている。「ひだまり」と「ひろがりぬ」のH音の重ねも快い。(八木忠栄)


January 1912016

 鮟鱇のややこしき骨挵りけり

                           山尾玉藻

篇に弄ぶと書く挵(せせ)るは、その字が表す通り、箸で食べ物をつつきまわすこと。決して行儀がよいことではないが、対象が鮟鱇であることにより、納得の一句となった。河豚にまさる美味と呼ばれる鮟鱇だが、グロテスクな見た目同様、その身もきれいな切り身となるわけではなく、どの部位もかなり複雑な形態をしている。骨にも皮にもゼラチン質の身をまとい、料亭によっては「骨についた身はすべてしゃぶって食べつくしてください」とまで言われるほど。ともあれ、ややこしくもおいしい鮟鱇にせっせと取り組んでいる姿は飾り気なく、鍋を囲むほっこりとあたたかい人間関係までが見えてくるのである。『人の香』(2015)所収。(土肥あき子)


January 1712016

 鉛筆の芯に雪解の匂ひかな

                           武井伸子

筆の芯に鼻を近づけると甘い匂いがします。これを雪解の匂いとしたところに飛躍があって新鮮です。たしかに、雪解は早春の草木がかすかに発する息吹を運んでくれるのかもしれません。キーボードやタブレット使用が一般的な現在、鉛筆を使う人はめっきり減りましたが、昨日今日は大学入試センター試験です。全国693箇所で56万本の鉛筆が動くとき、それぞれの会場には甘い香気が漂うのでしょう。受験生は、今まで蓄積してきた知識を鉛筆の芯に託して、堅固な意志を鋭角に削られた鉛筆の先に宿します。問一、問二、問三、「やれそう、やれる」という手応えは、受験生を緊張から解放してランナーズハイに似たある種の快楽へと誘います。「雪解」は春の季語ですが、受験生たちは、いち早くその匂いを実感しているのではないでしょうか。「ににん」(2016年・冬号)所載。(小笠原高志)




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