RR句

March 2932016

 うつとりと雲を見つむる孕み鹿

                           大山雅由

み鹿は妊娠してお腹が大きな鹿。それでも臨月の人間のような派手な大きさにはならず、いざとなったら全速力が使える。鳥居の内では、神の使いとされ、大事にされてきた鹿は、どこかおっとりと人間をおそれるでもなく、鷹揚に過ごしている。自然界では動きがにぶくもっとも襲われやすい産み月となっても、のんびり空を眺める余裕があるのだ。黒目がちにうるんだ目で眺める先の春の空には、やわらかな雲が流れている。うっとりと見つめるまなざしとは裏腹に、草原を駆け回った遠い祖先の血がわずかに騒いでいるのかもしれない。『獏枕』(2015)所収。(土肥あき子)




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