v句

June 2362016

 きつね来て久遠と啼いて夏の夕

                           久留島元

つねは不思議な動物である。瀬戸内の海辺にある学校で教師をしていた時、野生の狸は時々給食の残飯をあさりに来ていたので昼間から目にしていたが、きつねは山の中で猟師の罠にかかっているのを見たのが初めてだった。野生の狐は鋭くそそけだった顔をして歯をむき出しにこちらに向かってくる勢いだった。あまり人前に姿を現すことがないから神格化されるのか。「久遠」と表記された鳴き声が、赤いよだれかけをした稲荷神社のきつねの鳴き声のようだ。きつねといえば「冬」と季の約束事に縛られた観念からは発想できない軽やかさ。夏の夕方へ解き放たれたきつねが嬉しがって時を超える啼き声を上げている。『関西俳句なう』(2015)所載。(三宅やよい)




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