2016N715句(前日までの二句を含む)

July 1572016

 燕雀も鴻鵠も居る麦酒館

                           廖 運藩

燕雀」はツバメやスズメなどの小さな鳥のことで、転じて小人物をさす。「鴻鵠」は大鳥や白鳥など大きな鳥のことで、転じて大人物をさす。小人(しょうじん)も大人(たいじん)も一つ屋根の麦酒館に居てわいわいがやがやとやっている図である。『史記』に「磋呼、燕雀安んぞ鴻鵠の志を知らんや」とあり、小さな者にどうして大人の志が解りましょうやとの原典をよりどころにしている。中国の陳渉が、若いころ農耕に雇われていたときに、その大志を嘲笑した雇い主に向かって言ったことばとされている。小生の酔眼によればいずれ飯を喰らい糞を垂れるただのお仲間に過ぎないのではあるが。他に<すぼみ行く麦酒の泡や朋の老い><酔ひどれの生き血吸ひたる蚊の不覚><絵日傘やをみな骨までおしやれする>などあり。俳誌「春燈」(2015年9月号)所載。(藤嶋 務)


July 1472016

 かき氷前髪切った顔同士

                           工藤 惠

しぶりに会った友達同士、顔を見合わせて「髪切った?」同時に言って何となく笑いあう。向かい合ってかき氷を食べていても前髪を切った互いの顔を正面から見るのがまぶしくて、下を向いてかき氷を一匙一匙丁寧にすくって食べる。そんな光景が目に浮かぶ。前髪を切ると、 顔がむき出しになる気恥ずかしさがあって美容院でも「前髪、切りすぎないでくださいね」と美容師に念押しする女の子をよく見かける。色鮮やかなかき氷はなんといっても若者の食べ物。私などはあの氷の山を食べつくす気力はもうない。『雲ぷかり』 (2016)所収。(三宅やよい)


July 1372016

 凉しさの累々としてまり藻あり

                           佐藤春夫

海道の阿寒で詠まれた句である。北海道ゆえに夏なお凉しいはずである。湖畔に行くと、波に揺られながらまり藻がいくつか岸辺に漂っている。累々と浮かんでいる緑色のまり藻が、視覚的にも凉を感じさせてくれる。まり藻は特別天然記念物である。私は学生時代の夏休みに北海道一周の旅の途次、阿寒湖畔に立ち寄り、掲出句と同じような光景に出くわしたことをよく記憶しているが、現在はどうか? 現在は、立派な展示観察センターができていて、まり藻を詳しく観察することができるし、マリモ遊覧船で湖上を島へと渡ることもできるらしい。当時、傷んでいるまり藻は展示室でいくつか養生されていて、回復すると湖に戻してやるということをやっていた。その旅ではみやげもの店で売っているニセモノのマリモを買ったっけ。マリモは別の種類のもの(フジマリモ)が、山中湖や河口湖などに生息しているという。春夫には他に松江で詠んだ句「松の風また竹の風みな凉し」がある。『文人俳句歳時記』(1969)所収。(八木忠栄)




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