未来が眼前の深淵と化した日から、
新たな人間として、跛の足で歩き出す老人。
稼動中の生命の分解作用を見据えながら、
生の終盤戦に没頭する。
風。あなたに触り、
そのあとわたしに触れていった。
天空に突き入る鳥に、
そして地面にたよりなく踏ん張る木に。
それから…生傷のような雲を吹きやり、
光のなかのこどもとまろび遊び、
ひとり歩むわたしのかたわらを行くだろう。
危ないじゃないか!
生れ落ちて、空のてっぺんから墜落して
そろりそろりとこの坂を下っているんだから
そんなに急ぐなよ
いつか空を飛ぶかもしれないんだから
二つの言語で書くベケットはまた、寒々とした生の現実を不可思議なおかしみとして描く。自身の内部に響いている幾つもの声・思考の呟きを聞く。
ゲリラ戦を闘うチェ・ゲバラは、夜になると兵士たちにネルーダの詩を読んでやるのをつねとしていた…
お前たちの死せる口を通じて語ろうとわたしはやってきた
地上に散在する
ありとあらゆる黙した唇を集めるのだ
わたしの血管と口に来い
わたしの言葉と血を通して さあ話すのだ
――山頂に登り、アメリカ大陸の過去を生きた人々、未来を生きる人々の声に耳を傾ける。
槐の花があんなに咲いている。
山椒の種がぱらぱらとはじける。
パッパッと唐辛子の実が飛ぶ。
時が
時が
こんなに降ってくる。