一晩じゅう、きみが出てくるのを待っていた。 普段はそんな気分にはなれないものだが、 その日は、 付き合い始めたばかりの恋人のように、 優しい気分になれた。 (二人でアイスクリームなんかなめちゃってさ) ほかにすることもないので、 話をしていたけれど、 そのうち話すこともなくなった。 波がやってくると、 二人の呼吸を合わせた。 静かなときには、 彼女の寝顔を見ていた。 夜の海をずっと見ていたのは初めてだ。 波はしだいに高くなり、 激しくなった。 でもきみはまだ来ない。 ずっと待っていた。 いつまでも待っているんじゃないかと思った。 東の空が明るくなり始めたときに、 やっときみは出てきた。 出てきてみれば意外にあっけなかった。 きみは一瞬ためらったあと小さく泣いた。 きみと同じように出てきた子の泣き声が、 遠くから聞こえてきた。 きみのお母さんは、 しばらくベッドから立ち上がれない身体になったけれど、 笑った顔がかわいかったよ。