砂漠の星空*



アルジェリアは石油と天然ガスを豊富に産出するが、 三五歳以下の失業率は八七パーセントもあり、 政府とイスラム急進派が内戦をしていた頃ほどではないものの治安は悪い。 旧宗主国のフランスは間に地中海をはさんでいるが非常に近く、 マルセイユとアルジェの距離は東京と山口の距離と同じくらいで、 地中海にはヨーロッパとアルジェリアを結ぶパイプラインが埋まっている。 一月十六日、反政府勢力が天然ガスプラントを占拠し、 日本企業日揮の社員を含む人質を多数取って立てこもった。 今年始めからフランスが介入している隣国マリの反政府側捕虜の釈放を要求している。 日本政府は人質の安全を最優先にと申し入れたが、 アルジェリア政府軍はただちに攻撃を開始してゲリラを殲滅、 その過程で日本人などの外国人を含む人質とゲリラの多数が死んだ。 テレビが言っていたのはおおよそこういうこと。 それにしてもわからないことの多い話だ。 人質を撃ったのは襲撃者側なのか、それとも政府軍なのか、 それさえわからない。 証言は錯綜していて相互に矛盾するものもある。 しかし、証言者それぞれも死の危険にさらされていたのだから、 不正確なところがあるのはしょうがない。 それに、政府軍が殺していたとしても、 アルジェリア政府は決して認めないだろう。 ただ、人質に危害が及ぶ可能性があるとわかっていて攻撃に出たのだから、 襲撃者たちとともに、アルジェリア政府軍が人質を殺したと言うことは できるはずだ。未必の故意である。 わからないのは、被害者を出した英米仏の権力者たちが、 アルジェリア政府の行動を支持していることだ。 人質の安全第一のはずの日本政府も、 支持こそ口にしていないが、非難もしていない。 政府にとって国民の命はそんなにも軽いものなのか? そんな政府がなぜ激しく非難されていないのか? 関係者に十人もの死者を出した日揮という会社の動きもわからない。 事件が進行している間も、アルジェリア国内のほかのプラントは、 普通に操業していたらしい。 死者が七人出たことが明らかになった二十二日になって、 初めて一時退避を始めたという。 撤退ではないのだ。 いざとなればお宅の社員など死んでもかまわないという態度を 実行に移したアルジェリア政府に対してなぜ何も言わないのか? 同じような事件がまた起きれば、社員を殺されるかもしれないのに? そもそも、産油国なのにアルジェリアはなぜ中東のように豊かになっていないのか? 地中海に埋まった管で、それこそ富をチュッと吸われているのではないか? 自分たちが貧しいのは、フランスをはじめとする欧米諸国、 その尻馬に乗っている日本などだと思う人々が多数いても不思議ではないが、 テレビはなぜそういうことを言わないのか? 襲撃者がしたことは確かに恐ろしいことだが、 彼らにテロリストのレッテルを貼って全面攻撃を宣言することのどこに大義があるのか? 旧植民地の富を管でチュッと吸っている国の権力者が言っていいことか? 誰が人を殺しているのか本当にわかっているのか?                           (二〇一三年一月三〇日)
* 犠牲になった渕田六郎さんは、フェイスブックのプロフィールに「燦々と降り注ぐ星空を目指し世界各地で仕事をしている。次はアフリカ大陸に位置するアルジェリアに行き、砂漠で星空を眺めることに期待を込めて!!」と書いていたという。また、お兄さんに「アルジェリアは怖いところだ。春には戻るからお酒を飲もう」とも言っていたという。

2013年1月



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