大変な日に



特に内容は秘すが、 その日は大変な話し合いをしなければならなかった。 大変だということは予想できていたが、 どのくらい大変かまではわかっていなかった。 実際に話し合いに入ってみると、 相手は思いのほか強い姿勢で臨んできたが、 こちらとしても生活を守らなければならないので、 一歩も引くわけにはいかなかった。 しかし、一歩も引けない事情があることは 相手も同じだということがわかってきた。 相手にとっても死活問題なのだ。 相手の要求を丸呑みするという形で それを解決することだけは 何としても避けなければならなかったが、 ほかの形で相手の問題を解決することは できそうだった。 いわゆる落とし所が見つかったというわけだ。 そこからあとは、 見つけたところに向かってまっすぐ進んでいったので、 双方ともほぼ満足して話し合いを終えた。 火種が完全に消えたわけではないが、 その日にカタストロフィに陥ることは避けられた。 よかった。 時間としてはそれほど長くはなかったはずだが、 身体の芯から疲れた。 しかし、まずまずの結果が得られたので、 その疲れには心地よさも含まれていた。 帰路に向かう前にトイレに行った。 手を洗ってポケットからハンカチを 取り出したつもりだったが、 出てきたのは靴下だった。 普段ならそんなことはないのに、 その日に限って、 靴下だった。

2013年6月



(C) Copyright, 2000-2017 NAGAO, Takahiro
|ホームページ||詩|
|前頁(一日)||次頁(ちょっとした違い)|