大きな錠剤



錠剤を呑み込もうとして水を飲んだら、 水だけなくなって錠剤が残ってしまう。 特に錠剤が大きいときにはありがちなことだけど、 今も口に錠剤が残って、 そうしたら、 去年死んだ犬のおじゃぐを思い出した。 毎年春から秋にかけて、 おじゃぐもフィラリアの予防薬を呑まなければならなかったけど、 自分では呑めないから、 私がおじゃぐの口を開けて、 大きな錠剤を入れ、 指でのどの奥の方に押し込んでいた。 ごっくんとのどが動いて、 口のまわりを舌でぺろりとなめたら成功だけど、 器用に舌を使って、 えっさえっさと前の方に押し出して、 ぺっと吐き出すことがよくあった。 たしかにクスリなんか呑みたくないよ、 という顔をしていた。 口をこじ開けられるのだから、 無理もない。 こっちも指をかじり取られちゃいけないので、 (おじゃぐはそんな乱暴なことはしなかったけど)、 ちょっと気持ちを集中させて、 反対の手でおじゃぐのあごの奥をしっかりつかんで呑ませていた。 今、口の奥に残った錠剤が、 ちょっと融けかかっているのを感じたとき、 おじゃぐに薬を呑ませて、 おじゃぐのつばでべとべとになった指を思い出した。 毎年何度か呑ませるのを忘れていたけど、 死ぬまでフィラリアにかからなくてよかった。

2013年7月



(C) Copyright, 2000-2017 NAGAO, Takahiro
|ホームページ||詩|
|前頁(砂時計)||次頁(語尾の研究)|