流し台にみかんの皮が二つ、 飛び散っている。 彼女が二メートル先からそれを投げ、 「今日は何もしないのに疲れた」 と言った。 みかんの皮が当たって洗剤が流し台に落ち、 ころんころんと乾いた音を立てた。 横に立っていた私はびくっとして卑屈になり、 みかんの筋が皮から飛び出して流しの外に広がっていたのを 拾って流しに捨てた。 (筋なんか丁寧に取っていたのは私の方だ) みかんを食べたのは夕食後のこたつ。 彼女が二つ持ってきて一つを私に差し出した。 私が筋を取っている間に、 彼女は食べ終わっていた。 (そのとき何を話していたんだっけ) 彼女が寝てから台所に水を飲みに行く。 流し台にみかんの皮が二つ、 飛び散ったまま残っている。


(C) Copyright, 1998 NAGAO, Takahiro
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