飛行機
一二時に離陸してから一六時に着くまでの一二時間
夏の午後が延々と続く
下を覗き込むとシベリアの森と蛇行する川
湖だと思っていたところは雲の影だとわかった
それがわかってからもう何時間もたった
シベリアの森と蛇行する川の風景は変わらない
地図を見てもどこを飛んでいるのかわからない
あのなかにこの飛行機を見上げている人は
いるのだろうか?
視線を上げて真横を見れば
飛行機雲が二、三本
ウラル山脈近辺と思われるところで
地面は雲に包まれて見えなくなった
次に地面が見えたときには家が見えた
地図を見るとエストニアらしい
四年前のソ連軍侵攻のTVニュースの画面を思い出した
それからすぐに海を隔てて見えた地面はスウェーデンらしい
その先の細かい島々はデンマーク
反対側の陸地はドイツ
そこから切れ目なく続くオランダの運河
一、二時間の間にヨーロッパの様々な国が現れては消えた
このなかで何度も何度も戦争が行われたわけだ
やがてオランダの地面も消えて海一色になる
ナチスの爆撃機の航跡をたどって
ブリテン島が見えてくる
(C) Copyright, 1996 NAGAO, Takahiro
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