死後
どうしても結婚したい人がいるの
と妻がいうので、
好きなようにしなさい
とこたえた。
男はそれから一週間もたたないうちに引っ越してきて、
お父さんと呼びたくなければ
呼ばなくてもいいんだよ
といった。
変なことをいうやつだと思ったが、
結局広永さんと姓で呼ぶことにした。
連れ合いを失ったのは私なのに、
おどおどと落ち着きがないのは、
二人の方だった。
たしかに、
親が再婚したときの
義理の親と子の関係は
これに似ているのかもしれないな
と思った。
男は私の機嫌を取ろうとして、
へらへら作り笑いをしながら、
あれこれ話しかけてくる。
そのくせ、
私が見ている前で、
私が目にはいらないような顔をして、
妻に抱きついたりするのだ。
夫婦ならそれが当たり前ではある。
私もあのような顔をして、
妻に抱きついたものだ。
しかし、
妻は男に抱かれながら、
ときどき私の方に
ごめんね
と目で語りかけてくるのだ。
そのたびに
胸のなかがカーッと熱くなって、
あいつのことは
おまえなんかよりも
おれのほうが
よく知っているんだ!
あいつとの歴史は
おれのほうがずっと長いんだ!
と叫びたくなる。
連れ合いを失うことの
つらさを感じるのは、
そういうときだ。
(C) Copyright, 2000 NAGAO, Takahiro
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