死ぬということは、 死体を始めとして、 主を失った衣類だの、 愛用の万年筆だの蔵書だのと、 始末に困るあれこれを、 家族に残していくこと、 なのだなと思い、 いつお迎えがくるのかは、 わからないが、 生きている間に、 捨てられるものは、 捨てておこうと思った。 こんなものも、 あんなものも、 今までどうして捨てられなかったのか、 まったく理解に苦しむとしか、 言いようがないが、 「もったいないから」 とか、 「いつか役に立つかもしれないから」 とか、 殺し文句はいくつもあったのである。 本当の理由がほかにあったことは、 言うまでもない。 いつお迎えがくるのかは、 わからないが、 そのときまで、 これ以上余分なものを溜め込まずに、 生きていられるだろうか。