ねじれた壁に貼られたポスターが、一枚一枚はがれて飛んでゆく。青空に浮んだ白い点々。夢はそのようにして消え、今日も悪いめざめがやってくる。誰にも会わない一日。赤く充血した眼を冷水で洗うばかりの一日。
ぼくの声がきこえる。
いつから歩いてきたのだろう。一瞬のにおいに驚いてふと立ち止まる。口のまわりについたミルクのしずく。泣きじゃくる子供の胸についている名札。そして再び歩き出す。明るい闇が続いている。
ぼくの声がきこえる。
日ざしはやわらかく、木々は静かにゆれている。コップは輝やきながら落ちてゆく。娘たちは並んで階段を降りてゆく。しかしそれらは全く別の世界のことだ。ぼくにはそれがわかる。そして
ぼくの声がきこえる。
(C) Copyright, 1995 NAGAO, Takahiro
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