風景


私は薄明の中を歩いていた 金属のように固い地面の上には 丸い地平線の彼方まで 私の他に何も無い ただ 抜け落ちた鳥の羽毛だけが 薄く積っていて 私が歩くと乱れて飛びはねた 私はなぜ歩いているのだろう そのような問が 頭に浮かばぬわけがなかったのだが 考えれば考える程 神経の糸は互いにからみあった そしてこのがらんどうの風景に 私が今までに見てきたものたちが 重なった 塩辛い光を満身に浴びて 無防備に足を洗っていた娘 白い歯をむき出して ニヤニヤ笑っていた海 入道雲が厚くなっていくのに 木の間をせっせと飛びまわっていた女郎蜘蛛 鉛のように澱んだ空気を吐きながら 木の陰に隠れていた娘 しかしお前は本当に見たのか と問われたら 私は自信を持って答えられるだろうか 風景は再びがらんどうになり あまつさえだんだん暗くなってくる 私は地平線すらわからなくなりながら 金属のように固い地面の上を ただ歩いていた


(C) Copyright, 1995 NAGAO, Takahiro
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