御輿



母は神だったので裸でいた。 村の礼拝所で数日ずつ過ごした。 どこからともなく村人たちが集まり、 母を拝んだ。 男たちは薄目を開けて拝んだ。 何のご利益があるのかは知らないようだった。 集まる人が少なくなると、 次の村に移動した。 移動するときには御輿に乗った。 私たち子供が御輿を担いだ。 見物がいなくても御輿に乗っていた。 普通、見物はいなかった。 ときどき御輿の扉を開いて、 西日を浴びた。 しばらくすると子供が増えた。 そういえば、私たちは神の子だった。 母は神だったが、 次第に老いていった。 ある日死んだが、 遺骸はなかった。 次の日から、 私たちのなかの一人が裸になり、 神になった。 残りは相変わらず神の子だった。 神の子でも、 死んだときは、 遺骸を残さなかった。 私たちは村がなくなるまで、 旅を続けた。 もう神はいない。


(C) Copyright, 2012 NAGAO, Takahiro
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