痛み



手を上げたのは当然だった。 子供同士であんなことをやれば きっと殴られる。 そういうことは 痛みとともに覚えなければならない。 殴られた子供は泣いた。 今度は口で叱った。 なぜ殴られたかのかがわかるように叱った。 子供はさらに泣いた。 さっきまでの強気がいっぺんに消えて、 抵抗力がまったくなくなっていた。 抵抗力のない泣き顔はかわいい。 かわいいので、 つい二発余分に殴ってしまった。 子供は母親に促されて、 ごめんなさい、もうしません と言ったが、 それから口をきいてくれなくなった。 殴った私の手には痛みが残った。 痛みは次第に強くなっていった。 子供がすやすやと眠ってしまったあとも、 左手の小指が痛くてたまらなかった。


(C) Copyright, 2000 NAGAO, Takahiro
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