出迎え
大谷君は一月にも出張でロンドンに来た
一週間でインド、イギリス、アメリカと回ったのだから
ジャパニーズエンジニアもハードである
神戸に帰ってすぐに地震にあった
家はひっくり返らなかったが
結婚祝いの食器類は全部壊れてしまったそうだ
電話で話しただけだから
どのくらい大変だったのか
そうでもなかったのかは
わからない
備蓄していた牛肉で毎日すき焼きを食っている
などと電話では言っていたが
新婚の奥さんはしばらく実家に避難していた
それでも予定通りロンドン行きは決行となった
双方の都合で私たちとは日程が一日ずれた
昨日着いたばかりのHeathrowに下山君の車でお出迎え
飛行機は予定よりも早く到着していた
昨日通った到着ロビーに急ぐ
たった一日の差でも随分前から来ているような錯覚に陥る
クウェートからの便と重なったせいか
出迎えも到着もアラブ系が多い
そう言えばあの辺はイギリスの植民地だったな
昨日もアラブ系の人をたくさん見かけた
次第に日本人も増えてくる
もう出てきちゃったのかな
でも出てきたからってふらふらどっかに行ったりしないよな
などと言っているうちに
二人が小さく見えた
地震のあとは初めてだ
やあと声を交わすとすぐに
彼はタバコがすいたいと言った
おお それならこっちだよ
と物知り顔で喫煙所に導く
二人同時にタバコに火をつける
それから大きくフーっと煙を吐いた
(C) Copyright, 1996 NAGAO, Takahiro
|ホームページ||詩|
|目次||前頁(抱擁)||次頁(坂道)|
PDF版
実物スキャンPDF