断章95-1 擬液状化 清水鱗造 金属が熱に負けて表面から溶けてくるように、言葉がつくるさまざまな方向のうち誰も知らなかった方向から取り出し、現在の空間で加工することによって、一見それは液状にどろどろ溶けだしている。 熱の裏面などという概念は成立しないように見えるが、空間にもう一つ軸を作ることによって、それは容易に成立する。そしてその場所への通信を媒介するのは言葉のように見えるのだが、厳密にいえばそうではない。熱を含む生体に媒介項が含まれているのだ。 そうすると、熱に溶け出したように見える建物や物象のイメージの平面に近付く池が、そこからさまざまにまた建物、物象を容易に作りうるものだと気づくのである。 それは奇態に見えるかもしれないが、たちまちのうちに人々に飽きられるだろう。というよりは人々は一瞬のうちに、作られたものに意識がいかなくなるのだ。 なにかをし終わったように煙草に火をつける男。雲ひとつない青空だ。鮮明に山の雪が見える。だが、彼の像は前方におよび後方におびただしい、まったく同じたたずまいを見せて成立している。それと同じように、いまではみえない、また将来見えなくなる方向に向かって、煙草をすう男の像がめまいがするほどたくさん、氷のように厳密に並んでいる。 |