レンガの家ならへっちゃらさ

丁田杵子



 ひるまおうちにいたときにたずねていらしたおきゃくさま、ドアもあけずにつっけんどんにおいはらってごめんなさい、きっとあなたもおしごとだったのですね、はんせいしてます。
 こんどおいでになるときは、ピンポンピンポンにぎやかにチャイムをおしたりなさらずに、「あけておくれ、おかあさんだよ」と、7ひきのこやぎをねらったおおかみさんのように、うっとりするようなこわいろをつかわれてはいかがでしょう。
 しっそなアパートでございますから、こぶた3きょうだいのうえのにいさんのワラのおうちみたいに「こんなうち、ぴゅーぴゅーぴゅーだ」と、ふきとばしてしまわれるのもかっこいいかもしれません。
 だけど、わたしはとっくにいたいけなこやぎでも、おちゃめなこぶたでもありませんので、あかずきんちゃんのおばあちゃんみたいに、おきゃくさまはれいぎただしくおむかえして、ぱくりとたべられてしまわないとかわいげないかもしれませんので、やっぱりはんせいします。このとしごろは、いろいろやりにくいのです。


Booby Trap No. 26



レンガの家ならへっちゃらさ-ゴーレム

ゴーレム

丁田杵子



角張った石の連なるアーマー を 取り去ってもやはり石 冷やりとすべらかなおまえの これは生身というのだろうか おまえは汗をかかないから ひたとかぶさったわたくしのどこも渇いたままだよ わたくしの脚が好きなのだね ほら こうしてすぼまる足首は おまえには無いものね 明日も又 裸足で歩いてみせてあげよう さあ わたくしには瞳をのぞかせておくれ 水のような石の瞳 今宵は何が映るだろうね 野分け/竜巻き/地鳴り/山 火を噴く/空 吼える/雨 穿つ/海 呑み込む 死んだ星の瞬き/古のみやこ/ひかりなき水底/予言成就する日/日食の束の間 あめと たいようが あわさるとき にじがかかる(*) おまえのからだはもう十分に熱して ほら 火が映りはじめた 火のなかの影はわたくし 足元から包まれてゆく 火よ 息を吹き込んでやろう 疾く 猛く焦がせ あまねく 石の瞳は水に戻り 縮み上がった屍がひとつ浮かぶとき すべらかなおまえのからだは緩やかに冷めていく おまえはまったく汗をかかなかったから わたくしのどこも渇いたままだよ 冷やりとなるまで 眠るまで 笛を吹いてあげよう ゴーレムは しずかに めをとじる(*)

(*)「ドラゴンクエスト」 ファミコン 86年5月27日発売 容量 512Kbit



Booby Trap No. 27


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