パラパラ



11時4分の鷺沼行きと 11時5分のたまプラーザ行き。 どちらのバスにしようかというときに、 どちらの方が安全かということは、 あまり考えない。 東京に出かけるには鷺沼の方が一駅分近いし、 1分だけだが先に出る。 そういえば、鷺沼11時半は、 確か30分に一度の急行のはずだ。 たまプラーザには27分頃に到着のはずだが、 11時5分で果たして乗れるだろうか。 ギリギリというところだろう。 12時半に池袋に着くためには、 この11時半の急行を外すと ちょっと厳しいかもしれない。 しかし、たまプラーザ行きでも、 20分あれば駅に着くぐらいは着けるんじゃないか。 たまプラーザ行きなら、鷺沼行きと違って バス停は坂道の下だから歩きが楽だぞ。 そういったことを30分も前からあれこれ考えられるのは、 どちらのバスも1、2時間に一度しか出ないからだが、 結局鷺沼行きに乗って、 運転席のすぐ後ろの空席に座ってから、 どちらの方が安全かということを考えなかったことに気付く。 両方のバスが同時に事故に遭うことはあまりないだろう。 事故に巻き込まれるとしたらどちらか片方だ。 だとすると、どちらのバスに乗ったかが、 生死の分かれ目になるかもしれない。 そんな大切なことなのに、 オレはどちらが安全かをよく考えずに、 急行に確実に乗れるだろう、 というだけのことで鷺沼行きを選んでしまった。 これはまずい。 ではどちらが安全かというと、 半分くらいは同じ道を走るのだから、 大差はないような気もするが、 安全性を深く考えなかったという点で、 オレには瑕疵がある。 瑕疵がある分、事故に遭う確率は高いかもしれない。 しかし、事故に遭っても、バスの場合は全員が死ぬのはまれだ。 どこに座るかが生死の分かれ目になる。 オレは何も考えずに、 そこが空いているから というだけのことで前の方に座ってしまった。 前の方は正面衝突のときに危険度が高い。 しかし、後ろは後ろで追突されたときにはもっとも危険だ。 前や後ろでなくても、横からぶつかってきたときには ぶつかった場所が一番危ない。 でもまあ、横からどこにぶつかるかは予測できないので、 その場合には諦めるしかないだろう。 途中までは中央分離帯があるからそこまでは正面衝突はないな。 そのあとも、充分な幅のある道を通るから、 追突よりも正面衝突の方が確率は低いだろう。 でも、たまプラーザ行きの方が中央分離帯のある距離が長いから、 たまプラーザ行きにした方がよかったかな。 いずれにしても、事故に遭ったら池袋12時半は間に合わない。 ただ生き残ったというだけなら、 今日わざわざ危険を冒して出てくることはなかったはずだ。 やはり事故に遭う可能性の少ないバスを選ぶべきだったな。 しかし、鷺沼行きとたまプラーザ行きのどちらが安全かと言われても、 やはり簡単に答えられるものではない。 そこまで考えたとき、 バスはすでに中央分離帯のない道を走っており、 その道は工事をしていて片側交互通行になっていた。 そうだそうだった、ここは工事をしていたのだ。 工事のことは知っていたはずなのに、 なんで忘れていたのだろう。 確かに誘導の係員はいるけれども、 常識的に考えれば、 この工事現場はほかの場所と比べて、 正面衝突の可能性は非常に高い。 しかもこのバスは、 行列の末尾という行列の先頭の次に危険な位置で、 この工事現場を通過しようとしていた。 向こうから前をよく見ないで走ってくる車がいたら、 オレはおしまいだ。 そして、向こうからすごい勢いでバイクが走ってくるのを見たとき、 私はほとんど目を瞑った。もうだめだ。 鷺沼行きに乗ったのは失敗だった。 後悔先に立たずとは、このことだ。 しかし、バイクは誘導の係員を見てすっと止まった。 よく止まってくれたものだ。今日はついてるぞ。 結局、バスは鷺沼駅に無事に着いた。 11時20分。 11時半の急行には間違いなく乗れる。 たまプラーザ行きは無事に着いたかな。 急行に乗るときには、 安全な場所はどこかということを もっと考えてから乗ることにしよう。 さっきはオレのバスの方が追突する可能性を見落としていたもんな。


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