一日の始まり



朝のテレビ画面は、 スタジオから西宮の海の風景に切り替わった。 尼崎の事件に関連して、 容疑者が捨てたと言っている スコップかなんかを探すのだそうだ。 海には警察の船が浮かんでいる。 手前は岸で、報道陣が何人も固まっている。 岸の少し先には、警察関係者が数人いて、 潜水士が海に飛び込むところが映し出される。 昨日は天気がよかったのに、 なぜ雨のなか、こんなことをやっているのかね? 日曜で休みだったのかな? そもそも今日こんなところで捜索をするなんて、 ついさっきまで知らなかったぞ。 報道陣はなぜ知っているんだろう? マイクを持ってレポートしている人は、 毎日全国のあちこちに行っている人だぞ。 朝早くにあそこにいるということは、 前日の夜くらいにはわかっていたということだよね? マスコミというところには、 警察から電話がかかってくるのかな? 明日西宮の海で捜索をやるよ。 来たかったらおいで。 お上でももっと丁寧にしゃべるのかな? 電話じゃなくて直接言うのかも? でも、警察が教えてくれなきゃわかんないよねえ。 じゃなきゃ全部のマスコミが揃っていたりしないだろう。 そのくせ、警察はマスコミなんか知らないというふりをしているね。 ちょっと離れたところにマスコミを隔離して、 でも、映しては欲しいから映るところにいるんだね。 お知らせしてもらったマスコミの方でもちょっともめるんだろう。 げっ、明日はほかのことをやるつもりだったんだけどなあ。 でも、顔を出しておかないと、警察が連絡してこなくなるぜ。 もっと大事なときに置いてきぼりを食らったら大変だよ。 しょうがないなあ、犬山さん(仮名)、西宮行ってくれる? でもって、今日は雨だから、 潜っても先が見えないようなら中止するんだそうだ。 テレビはしばらくほかのことをやって、 番組の後半でまた海の風景に切り替わった。 やっぱり今日は止めたそうだ。 すべてが無駄な時間だったなあ。

2012年11月



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