入れ子



人の身体のなかには、 目に見えない小さな人々が、 無数に住みついている、 という話を聞いたことがある。 それら小さな人々は、 大きな人のなかにいることを知らず、 自分は独立した人格である、 などと言っていて、 互いに仲がよろしくない。 挙句の果てには、 二手に分かれ、 派手な戦争をやらかして、 大きな人を死なせてしまう。 もちろん、 そのときには、 小さな人々もみな滅びてしまうのだが、 大きな人にとっては迷惑な話である。 思い当たることはあった。 手足の動きが、 思いとは裏腹に、 左右に少しずつ、 ずれるのだ。 身体のなかに、 新しい意思が、 宿りつつあるらしい、 そう気付いたときに、 遠くから、 微かな、 声が、 聞こえた、 ような気がする。 ジャスティス、ジャスティス……


(C) Copyright, 2003 NAGAO, Takahiro
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