よみがえり



店で鍋の世話をしてくれていた お姉さんの名札を見て、 亡くなった知人のことを思い出した。 四、五日前に 顔だけ思い出して、 どうしても名前が思い出せなかった。 深く行き来があったわけではない。 年齢とか、家族構成とか、勤め先とか、 そういった形ばかりのことしか知らず、 亡くなったのを知ったのも、 しばらくたってからだった。 ただ、こちらが勝手に好感を持っていた、 という、ただそれだけのこと。 亡くなったと知っても、 知らせてくれた相手に、 そうですかと言うだけだった。 それでも、顔だけ思い出して、 名前が思い出せなかったときは、 気がとがめた。 彼はもう文句も言えないのに、 ずいぶん薄情じゃないか。 楽しい時間をくれた人だったのに。 だからかどうか、 記憶の中に名前がよみがえってきたときには、 自分でも不思議なくらいの 充足感があった。 よかった、 生きていた。 こちらの勝手な思いでしかないのだけれど。


(C) Copyright, 2012 NAGAO, Takahiro
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