空室



信号で右に曲がると、 急に人気がなくなった。 土ぼこりの舞う、 殺風景な坂道を、 上っていった。 アパートの階段も、 上っていった。 ドアを開けると、 部屋には誰もいなかった。 ああ、やっぱりいなかったか。 反対側の窓の向こうに、 墓地が見えた。 誰にも会わなかったのに、 その晩風邪を引いた。 楽しく読んだ本を図書館に返すので、思い出に気に入ったところを引用しておこうと思ったのだが、あったはずの箇所がどうしても見つからないので、記憶の中から引用した。本を返したら私も風邪を引いた。


(C) Copyright, 2012 NAGAO, Takahiro
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