July 301996
川を見るバナゝの皮は手より落ち
高浜虚子
虚子の「痴呆俳句」として論議を呼んだ句。精神の弛緩よりむしろ禅の無の境地ではなかろうか。俳句はこういう無思想性があるからオソロシイ。そして俳人も。(井川博年)
July 291996
月下美人膾になつて了ひけり
阿波野青畝
咲いたときには、大騒ぎされる月下美人。私も、深夜連絡を受けてカメラ片手に見に行ったことがある。その花も、一夜明ければ膾(なます)となる。食べた人によれば、美味とはいえないそうだ。あるいはこの句、人間の美女にかけてあるのかもしれない。だとすれば、作者は相当に意地が悪い。『俳句年鑑・平成五年版』(角川書店)所収。(清水哲男)
July 281996
海南風尾をまきあげて紀州犬
杉本 寛
海南風(かいなんぷう)は、夏の海から吹き寄せる季節風。当然のことながら、高温多湿となり蒸し暑い。そんな暑さの中で、舌も垂れずに昂然と沖を見ている紀州犬。まさに勇姿である。犬をうたった句は多いが、これほど直截にずばりとその姿を言い切った作品は、案外珍しい。この犬、切手の図柄になりそうだ。『杉本寛集』(俳人協会)所収。(清水哲男)
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