August 021996
蜩といふ名の裏山をいつも持つ
安東次男
川崎洋氏によれば、ヒグラシのことを「日暮れ惜しみ」と呼ぶ地方もあるそうだ。命名の妙。若き日、詩集『六月のみどりの夜は』を読んだ。裏山ではいつも蜩(ひぐらし)が鳴いていた。私の中にもあったはずの裏山。今何処。『裏山』所収。(八木幹夫)
August 011996
旅終へてよりB面の夏休
黛まどか
頭でつくった句の典型。下手な句ではないが、この程度の発見で満足してもらっては困る。この国の詩歌が困ってしまう。いかにも、イマジネーションがひ弱いのだ。しかし、平成俳句の一断面として、記録しておく価値はあるだろう。作者について、同性の中野翠が「サンデー毎日」(6月9日号)で書いている。「……女だっていうことにそんなに甘えちゃいけない気がする。おじさんたちの純情にそんなにつけこんじゃあいけないような気がする」。『B面の夏』(1994)所収。(清水哲男)
July 311996
なつかしき炎天に頭をあげてゆく
原 裕
ひさしぶりに訪れた故郷の地。見るもの聞くもの、すべて懐しい。耐えがたい暑さなど、いつの間にか忘れたように、頭(づ)をあげて歩いていく。そろそろ、帰省のシーズン。この夏も、こんな気分でなつかしさを噛みしめる人はたくさんいるだろう。ちなみに、原裕(はら・ゆたか)は茨城県の出身。『風土』所収。(清水哲男)
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