August 121996
炎天の老婆に無事を祝福され
瀧 春一
この暑いのに、よくまあご無事でここまでおいでなすってのう、と農道で顔見知りの老婆に声を掛けられる。やれやれ、この暑さでは外出も命懸け。いや待て、これはひょっとすると戦後の夏の復員兵の話ではなかったか。まもなく八月十五日。(井川博年)
August 111996
百日紅町内にまたお葬式
池田澄子
夏は、死の季節でもある。炎暑が病者の体力と気力を奪う。冷房装置が普及していなかったころは、なおさらであった。密集して咲く紅の花の下を、黒く装った人々が黙々と歩いている。そんな光景を傍見して、作者は「この暑さだもの……」とひとりつぶやいている。池田澄子は三十代の折り、たまたま目にした阿部完市の句に驚嘆し、突然俳句をつくりはじめたという。1989年に、第36回現代俳句協会賞を受賞している。『空の庭』所収。(清水哲男)
August 101996
夏終る見知らぬノッポ町歩き
阿部完市
夏の終りのシーンとした田舎町に現れた見知らぬ「ノッポ」。何か不思議な笑いを浮かべて、この男はいったい何をしているのだろう。「ノッポとチビ」は、清水哲男が京都での学生時代に創刊同人だった詩誌の名前。もちろん、この句とは関係ありません。(井川博年)
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