1996N819句(前日までの二句を含む)

August 1981996

 水族館汗の少女の来て匂ふ

                           ねじめ正也

んでもない情景だが、一瞬、作者の「男」が頭をもたげているところに注目。入ってきたのが少女ではなく少年だとしたら、句はおのずから別の情感に流れる。というよりも、作品化しなかったかもしれぬ。で、この少女がその後どうしたのかというと「闘魚の名少女巧みに読みて去る」のだった。水族館なんぞに、さして興味はなかったのである。ましてや、偶然に傍らにいたおじさんなんぞには。作者は直木賞作家・ねじめ正一の実父。ねじめ君に聞いた話では、その昔、放浪の俳人・山頭火が、高円寺(東京・杉並)で乾物店を営んでいた父君を訪ねてきたことがあったという。『蝿取リボン』所収。(清水哲男)


August 1881996

 涼風をいひ秋風をいふ頃ぞ

                           矢島渚男

にしたがえば、いまごろの風は秋風。しかし、実感的にはまだ夏だから涼風(夏の季語)というほうが似つかわしい。さあ、どちらにしようか。この時季の俳人は困るのでしょうね。そんな心中をそのまま句にしてしまったというところでしょうか。話は変わりますが、何年か前に、春の選抜高校野球でマスコミが「さわやか甲子園」というのは間違いだと、本気で怒っていた俳人がいました。なぜなら「さわやか」は秋の季語だからというのですが……。どんなものですかねえ。『木蘭』所収。(清水哲男)


August 1781996

 我庵は下手の建てたる野分かな

                           佐久間柳居

分の中、天井が軋み、戸板が鳴る。江戸の時代にも手抜き工事などあったのか。しかし、別段それを咎立てすることもなく、「下手の建てたる」などと嘯いているところが面白い。佐久間柳居は幕府直参の武士。俳諧は初め沽徳に学び、後乙由に師事。当時流行の江戸座俳諧に革新の波をおこした。寛延元年(1748)没。(大串章)




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