September 011996
背負はれて名月拝す垣の外
富田木歩
大正十二年九月一日の関東大震災の犠牲となって、わずか二十六年の生涯を閉じた木歩(もっぽ)の処女作。大正二年の作品というから満十六歳のときの作品。生れつき足が立たず、学校へも行けなかったからイロハの文字一つ一つを独学で学ばねばならなかった。そんな人物がやがて俳句に目ざめていったことも驚きだが、この処女作からして、ちっとも暗さがない。不遇を訴えて哀れみを乞うようなところがない。不思議なこの明るさはいずこから来たものだろうか。小生の愛してやまない隅田川。その川べりに一生を過ごした俳人としても忘れられない。(松本哉)
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