1996N917句(前日までの二句を含む)

September 1791996

 鈴虫の一ぴき十銭高しと妻いふ

                           日野草城

作「鈴虫」十四句の三句目。病気の子を慰めようと、勤めがえりに買い求めてきた鈴虫。しかし、妻から最初に出た言葉は「それ、いくらしたの」であった。がっかり、である。昭和十年頃の作品。当時の物価を調べてみると、豆腐が一丁5銭で、そば(もり・かけ)がちょうど10銭。カレーライスが15銭から20銭。天どんが40銭ほどだった。こう見ると、やっぱりこの鈴虫、高いことは高い。それに、いまと違ってどこにでも秋の虫がいた時代だということを思えば、なおさらである。この勝負、草城の負け。『轉轍手』所収。(清水哲男)


September 1691996

 ジーパンをはき半処女や秋刀魚焼く

                           磯貝碧蹄館

処女という造語(?)が絶妙にして秀逸。いまどきの娘はみなそういうものです。作者は元郵便局員として有名。俳号の奇妙さでも有名。韓国の古戦場にちなんだ名というが、本当かしらん。(井川博年)


September 1591996

 秋簾日のある草に水捨てる

                           北野平八

事を書かせたら、北野平八の右に出る俳人はいない。いつしか、私はそんな確信すら持ちはじめている。俳壇では無名に近いらしいが、おエライさんの目は、どこについてんのかね。縁側の簾(すだれ)の脇から、たとえばコップ半分の水を捨てようというとき、無造作に捨ててもよいのだが、そこはそれ、日のあたっている草にかけてやるのが人間の情。しかも、季は夏ではなくて秋である。うめえもんだなあ。憎らしくなる。没後に刊行された『北野平八句集』(富士見書房・昭和62年)所収。(清水哲男)




『旅』や『風』などのキーワードからも検索できます