1996N918句(前日までの二句を含む)

September 1891996

 りんご掌にこの情念を如何せむ

                           桂 信子

の句は難しいといわれている。短い詩型だから、想いのすべてを盛りきれないからだ。その点、短歌はほとんど恋歌のための詩型だろう。そんななかで、桂信子のこの一句は希有な成功例だと思う。その秘密は「情念」という抽象語を生々しく使ってみせた技術にある。じいっと句を眺めていると、むしろ「りんご」のほうが抽象的に見えてきてしまう不思議。戦前の女性句に、こんな新しさがあったとは。作者は大正三年秋、大阪生まれ。『月光抄』所収。(清水哲男)


September 1791996

 鈴虫の一ぴき十銭高しと妻いふ

                           日野草城

作「鈴虫」十四句の三句目。病気の子を慰めようと、勤めがえりに買い求めてきた鈴虫。しかし、妻から最初に出た言葉は「それ、いくらしたの」であった。がっかり、である。昭和十年頃の作品。当時の物価を調べてみると、豆腐が一丁5銭で、そば(もり・かけ)がちょうど10銭。カレーライスが15銭から20銭。天どんが40銭ほどだった。こう見ると、やっぱりこの鈴虫、高いことは高い。それに、いまと違ってどこにでも秋の虫がいた時代だということを思えば、なおさらである。この勝負、草城の負け。『轉轍手』所収。(清水哲男)


September 1691996

 ジーパンをはき半処女や秋刀魚焼く

                           磯貝碧蹄館

処女という造語(?)が絶妙にして秀逸。いまどきの娘はみなそういうものです。作者は元郵便局員として有名。俳号の奇妙さでも有名。韓国の古戦場にちなんだ名というが、本当かしらん。(井川博年)




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