1996N1021句(前日までの二句を含む)

October 21101996

 風の輪を見せて落葉の舞ひにけり

                           加藤三七子

日は萩原朔太郎賞(受賞者・辻征夫)贈呈式に出席のため、井川博年、八木幹夫と前橋へ。駅に降りたら、猛烈な風。コンタクトの私などは、ほとんど目があけていられないほど。さすがに上州の風である。それでも、三人で前橋名物の「ソースかつ丼」を食べようと、駅前広場を歩きはじめた途端に、この句そっくりの風に巻き込まれた。結局、探し当てた店は休みでがっかり。もはや初冬の感が深い前橋での一日だった。(清水哲男)


October 20101996

 菊の香やならには古き仏達

                           松尾芭蕉

暦九月九日(今年は今日にあたる)は、重陽(ちょうよう)。菊の節句。この句は元禄七年(1694)九月九日の作。前日八日に故郷の伊賀を出た芭蕉は、奈良に一泊。この日、奈良より大阪に向かった。いまでこそ忘れ去られている重陽の日だが、江戸期には、庶民の間でも菊酒を飲み栗飯を食べて祝った。はからずも古都にあった芭蕉の創作欲がわかないはずはない。そこでひねり出したのが、つとに有名なこの一句。仕上がりは完璧。秋の奈良の空気を、たった十七文字でつかんでみせた腕の冴え。いかによくできた絵葉書でも、ここまでは到達できないだろう。(清水哲男)


October 19101996

 日本シリーズ過ぎ行くままに命過ぐ

                           品川良夜

の句の味は、中年以降の野球ファンでないとわからないかもしれない。当たり前のことながら、日本シリーズは年に一度。テレビで試合を楽しみながらも、ふと自分はあと何回、シリーズを見ることができるのだろうと「命」の果てに思いが動いたりする。そうした思いを込めたこの句が、実は良夜の絶筆となった。品川良夜は、大脳生理学者の品川嘉也の俳号。戦後いち早く松山で刊行された俳誌「雲雀」の主宰者品川柳之を父にもった関係で俳句に親しみ、89年から「雲雀」を継承、右脳俳句を提唱した。92年10月24日没。したがって、句の日本シリーズは西武対ヤクルトである。なお、本稿の資料提供は百足(ももたり)光生さん。多謝。(清水哲男)




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